「蒼糸」の歌詞に絡まる糸をたどっていく
「蒼糸」は恋愛について歌った曲であることは明らかです。
しかしそれは大人の恋愛とは少し違うものかもしれません。
男女の恋愛とも違うものかもしれません。
想ってはいけない人と想い合っている、そんな2人のストーリーだと読み取りました。
のしかかる現実の中で思い出した夕暮れの日
羨むことばかり増えた
冷たい日常に
気持ちが落ち着かないよ
理論ばっか備えた
虫が鳴いてる
出典: 蒼糸/作詞:川谷絵音 作曲:川谷絵音
多感な時代、多くの少年少女が恋を知ります。
この曲の主人公もきっとその中のひとりなのでしょう。
でも主人公は、周囲の恋愛と自分の恋愛を比較するようになります。
そして他者を羨ましく思い、ついには日常が「冷たい」ものになってくる。
つまりは羨望が「妬み」へと変化したのかもしれません。
それを自覚しているからこそ落ち着かない。
自分と周囲の差を論破しようとする「虫」の声が頭から離れません。
「虫」と表現していますが、自分の理性が自分を攻撃しているとも考えられます。
井の頭線に揺られて
偉くなった気がしなくもない夕暮れ時
恋したんだったよな
想い合ったんだよな
あなた
出典: 蒼糸/作詞:川谷絵音 作曲:川谷絵音
井の頭線に乗って気分が変わったのはなぜか。
井の頭線沿いには東大、明大、國學院などたくさんの大学があります。
少女から大人へと変化していく学生たちを見たのでしょう。
近い将来仲間入りするんだ、なんて思いながらもやっぱり少女は少女なのです。
少女らしく恋をして、好きな人と思いが通じ合いました。
膨らんだストーリー
起承転結
3文字目半の糸
出典: 蒼糸/作詞:川谷絵音 作曲:川谷絵音
思い描いていたような恋、幸せな日々を詰め込んで2人の恋は大きくなっていきます。
恋物語は起承転結を順序よく進み、今は「転」を終えたところ。
その次に待っているのは「糸」と「吉」でした。
止めることも進むことも終えることさえもできない恋
もらってばっか 太った恋に
擦れて減ったさよなら
その気ない弱いセリフ落っこちた
守ってあげる 救ってあげる
思ってたってどうしても
この恋には軽すぎたみたい
出典: 蒼糸/作詞:川谷絵音 作曲:川谷絵音
想い合う日々の主導権は相手にあったのでしょう。
愛されている自覚はあって、相手ほど自分が愛せていない自覚もある。
想ってはいけない相手だという理性が働いているから、全力で愛せないのです。
関係を終わらせるべきだとも考えるけれど、愛されすぎて言い出せない。
相手から受け取る恋や愛の重さによって「さよなら」が小さく潰れていきます。
「守る・救う」という約束は、険しい恋の道で実行できるのでしょうか。
できない約束はペラペラで、風が吹けばいくらでも飛ばせます。
糸をたどった向こうに何があるか
込み上げてばっか 困るな
一時停止ボタン
押して音楽を止めた
途端忘れられたような
優しくされたような
気配が
長い糸を伝って私を迷わせるよ
出典: 蒼糸/作詞:川谷絵音 作曲:川谷絵音
落ち着かない毎日、頭の中では理性の虫がずっと鳴いています。
音楽を止めるように指一本で、考えることをやめてみるとどうでしょう。
息苦しさから開放されたように感じます。
それでいいよ、と声をかけてもらえた感覚もあったかもしれません。
2人の関係を終わらせることで自分はラクになれる、という確信はあるはずです。
起承転結の転を終え、結に向かう途中。「結」が2人の終わりならば。
「吉」から伸びてくる長い糸がこっちへおいでと誘っています。
少女らしいわがままな本音
祈った今日と
笑った明日を
連れていった明後日
紡ぎ出す恋心首ったけ
好きって言って
抱きしめてよ
本当はそんなことばっか考えてるよ
出典: 蒼糸/作詞:川谷絵音 作曲:川谷絵音
今日や明日の幸せな顔を額縁に入れて「この先も幸せだよ」と目の前に出されたら。
このまま終わらないでと願うのは当たり前のことです。
「転」を終えたあと自身の体から紡ぎ出された糸は、相手に絡みついていきます。
できれば終わらせたくない、恋なんて太ってしまえばいい、愛していて欲しい。
本心はわがままで、理性などかなぐり捨てて恋路を進んでいきたいと願っています。