若きシンガーソングライター、尾崎豊

圧倒的な歌唱力とその存在感、独特の雰囲気は多くの人を魅了したが、彼の作り出す楽曲はそれ以上に人並外れたものでした。

またその歌詞は自身の体験や身近な出来事、事件などをモチーフに十代の等身大の言葉でひりつくように心情を吐露し、若者の心をつかんで離さないものでした。

誰もが認める80年代、90年代初頭を代表するカリスマ、それが尾崎豊です。

数多くのヒット曲を持ち、代表曲のうちの一つ「I LOVE YOU」小田和正桑田佳祐宇多田ヒカル福山雅治などをはじめとする多くのアーティストにカバーされ、現在でも人気があります。

耳にしたことがある今の十代の方もきっといることでしょう。

また「15の夜」の衝撃的な歌詞の世界も有名ですね。そう、あの盗んだバイクで走り出すやつです。

尾崎豊歌詞は若者の気持ちはもちろん、当時の世相をもよく映し出していました。

尾崎豊の十代最後にレコーディングされた曲

【尾崎豊/Forget-me-not】○○のキーワードから歌詞を作成!?気になる歌詞&動画を紹介♪の画像

「Foget-me-not」は3rdアルバム「壊れた扉から」に収録されているバラード

この曲が、十代の若者のカリスマだった尾崎豊自身の十代の最後にレコーディングされた曲となりました。

この曲のレコーディングを終えたのが1985年11月26日、尾崎豊の誕生日は1965年11月29日。

レコーディングの3日後には20歳を迎えました。

歌詞のきっかけはプロデューサーの言葉!?

2ndアルバム発売後、人気が炸裂する中でツアーを行いながら次のアルバムの為の曲を創るという多忙な毎日を送っていた尾崎豊は、次のアルバムに入れるバラードに納得がいかず、なかなか完成しませんでした。

ゆっくり時間をかければよかったのかもしれませんが、「十代のカリスマ」というイメージが強くあった尾崎豊が十代の内にもう一枚アルバムを出しておきたいという製作側の思惑も複雑に絡んでいました。

もはや尾崎豊の創作意欲だけですべてが決められる規模のものではなくなっていたのです。

プロデューサーのつぶやいた一言

行き詰ってしまった尾崎豊はこれまで一度もしたことがなかったという、歌詞入っていない、メロディーのみのテープをプロデューサーに聞かせます。

後の「Foget-me-not」という名になるこの曲を聞いたプロデューサーが、そのメロディーを耳にした時口にしたイメージが「勿忘草」=英語でForget me notだったのです。

そのプロデューサーの言葉を聞いた尾崎豊は、勿忘草をモチーフにして見事に歌詞を書き上げました。

レコーディング終了日の早朝、突然完成した「Forget-me-not」の歌詞と、普段めったに着ないスーツに身を包み、ネクタイをした尾崎豊が現れ、スタッフを驚かせたそうです。

神懸かったレコーディング

歌詞ができたと聞いたプロデューサーは即座にそのままレコーディングを行います。

尾崎豊のミュージシャン人生の中で、唯一この曲だけが尾崎豊がスーツを着てレコーディングが行われたもので、その上神懸かった様な歌声にプロデューサーは戦慄したといいます。

まるでこのまま死んでしまうのでは、尾崎豊はこの瞬間のためだけにいたのではと思わせるほどだったよう。

リリースされた、歌詞の入った曲からはこれ以上ない位歌詞の世界観も題名も曲調にぴったりと合っています。

でももしプロデューサーの一言がなければ、全く違っていた曲になっていたかも、と思うと感慨深いものがありますね。

「Forget-me-not」の繊細な歌詞

小さな朝の光は疲れて眠る愛にこぼれて
流れた時の多さにうなずく様に寄り添う二人
窓をたたく風に目覚めて君に頬を寄せてみた
幸せかい昨夜のぬくもりに
そっとささやいて強く君を抱きしめた
初めて君と出会った日僕はビルの向こうの空を
いつまでも探してた
君が教えてくれた花の名前は

出典: Forget-me-not/作詞:尾崎豊 作曲:尾崎豊

寄り添う恋人たちが優しく描かれていますね。

”君”と出会う前の”僕”は、東京の都会でいろんなものを見失っていたのでしょう。

高層ビルに埋もれた街並みに日常を取り込まれ、空を見上げることも、空が青いことも、空の存在さえも忘れていたような毎日を送っていたのかもしれません。

”君”に出会ったことによって”僕”の空は鮮やかな色を取り戻し、そこに大きな空があることを思い出しました。

”僕”の日常は空と同様、生き生きと動き始めます。

空色の忘れな草

街に埋もれそうな小さな忘れな草

出典: Forget-me-not/作詞:尾崎豊 作曲:尾崎豊

足元に咲く小さな小さな水色の花。

”君”に会うまではきっと”僕”の目に入ることはなかったでしょう。

花の名前を知らないのは当然、花の存在すら知らずに踏んでしまっていたかもしれません。

空と同じ色をした忘れな草。

”君”は”僕”の心に花の名を教えるとともに、いろんなことを取り戻してくれるようです。