小沢健二の時代
愛を直感と肉感で捉えたデイズ
かつてこの国には小沢健二が創った時代がありました。
愛を直感と肉感で捉えることを全肯定する素敵な時代です。
様々な悩みも小沢健二の歌に答えを見出して生きていたひととき。
言葉というものがこれほどに豊かなものかと感じ入ることができた束の間の季節。
フリッパーズ・ギター時代から真摯に言葉を紡いできた彼の新しい言葉に私たちはどれほど助けられたか。
このランキング記事を書くに当たって一番悲しく思ったのはたくさんの名曲を選外に漏らすことでした。
彼の作品のどの曲にも等分に想い出があるので10曲しか選べないのはとても痛いことです。
第10位から第1位までほぼ順不同だと思ってください。
それでは第10位から第1位までご紹介いたします。
第10位 「ギターを弾く女」
2002年2月27日発表、小沢健二の通算4作目のアルバム「Eclectic」収録。
発表当初、多くの人がこの新しい音楽の意義を捉えそこねたはず。
戸惑う人々にもこのアルバムのビートは強烈に響きました。
やがて一部の先鋭的な人たちを感化してJ-ROCK、J-POPの新時代のバンドを先導するようになります。
それでもボーカルが奥に引っ込んだようなミックスを残念がる人々もいました。
そうした人々もアルバム発表から15年以上経た今、その先進性を感じ入るようになります。
あまりにも早すぎたビートの新時代。
この曲を第10位に推します。
歌詞を見ていきましょう。
強烈なビートに千切れる言葉
あなたが怒りの後ろに隠す
女の顔
女の本能
激しく誘う
乱暴な魔天使が甘える
そんな姿
そんな可愛さ
その気にさせる
出典: ギターを弾く女/作詞:Kenji Ozawa 作曲:Kenji Ozawa
小沢健二はニューヨーク在住の間にクラブに足繁く通い人脈を築いていたといわれます。
クラブで呼吸する内にビートの大切さを学んだのでしょう。
新しく洗練された音楽と強烈なビートの衝撃で中々気付かなかったのですが言葉は相変わらず冴えています。
絶え間なくビートが打ち付けるのでメロディは僅かな間隙にしかありません。
その分、歌詞も短く途切れ気味になります。
しかし選ばれた言葉のセンスはやはりさすがです。
女性への愛が直感と肉感の中で捉えられているのは以前の小沢健二と変わらない点。
もう一度、鑑賞し直して再評価したい楽曲・アルバムです。
第9位 「春にして君を想う」
1998年1月28日発表、小沢健二の通算18作目のシングル。
ニューヨーク移住前の最後のシングルです。
所謂「短冊」と呼ばれる8cmシングルとしても最後の作品。
タイトル通り春めいたサウンドで編曲はジャズ・ピアニストの渋谷毅です。
バックの演奏は渋谷毅オーケストラ。
渋谷毅は浅川マキのバックを長年務めていました。
小沢健二とはジャズ色の強い3作目のアルバム「球体の奏でる音楽」以来、がっつりと組んでいます。
当時の売上が芳しくなかったため現在はむしろプレミアが付いている状態。
しかしファンにとっても小沢健二にとっても大事な曲で今なおライブで演奏されます。
春の日に暖かな陽射しを浴びてくつろぎたいならこの曲を延々とリピートしていたいものです。
歌詞を見ていきましょう。
穏やかな春の日に聴きたい曲
薄緑にはなやぐ町色
涙がこぼれるのは何故と
子供のように甘えたいのだ
静かなタンゴのように
子供のように甘えたいのだ
静かなタンゴのように
出典: 春にして君を想う/作詞:小沢健二 作曲:小沢健二
実際に穏やかかつ静かな曲調でこの曲を歌われると自分が甘えたがりの猫になったような気分。
幸せなのに泣いてしまう。
それが何故なのかは私たちには謎であったりするのですがうっとりしながら聴いてしまいます。
小沢健二の「短冊」シングルの後期の作品にまつわるプレミア問題は何とかして欲しいもの。
セールスが好調だった時期よりもむしろこの頃の方がいい音楽がたくさんあるのに勿体ないです。
ライブでは普通に歌ってくれるので会場で聴くのが一番安価かつ贅沢かもしれません。
第8位 「さよならなんて云えないよ」
1995年11月8日発表、小沢健二の通算10作目のシングル。
後にベスト盤「刹那」にも収録されます。
「美しさ」と改題されてジャズ・アレンジになりシングル「ある光」にも再録。
ジャズ・バージョンでは渋谷毅がピアノ、川端民生がベースです。
ともに浅川マキのバック演奏などで著名なプレイヤー。
この曲にまつわる著名なエピソードはタレントのタモリがこの曲の大ファンであることです。
タモリは爆笑問題の太田光を家に招いて打ち合わせしたときにも小沢健二の曲を掛けていたとか。
「歌詞がいいんだよ」
太田光にそういって聴かせたそう。
「笑っていいとも」で小沢健二が出演して弾き語りを披露したときのエピソードも記憶に残っています。
「小沢くんの歌は恥ずかしくならないからいいよね」
小沢健二の歌はタモリの美学に叶うのでしょう。
歌詞を見ていきましょう。