井上陽水の超!略歴
1948年8月30日生まれ、福岡県出身。日本を代表するシンガーソングライター兼音楽プロデューサー。本名は井上陽水(いのうえあきみ)。アンドレ・カンドレの芸名でデビューし、1972年に井上陽水(いのうえようすい)に改名。
出典: https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BA%95%E4%B8%8A%E9%99%BD%E6%B0%B4
以上が井上陽水の超!略歴です。
『傘がない』とは
『傘がない』は、陽水の再デビューアルバム『断絶』(1972年5月1日)からリカットされたシングルで同年7月1日にリリースされた楽曲。シングルカットのB面は『感謝知らずの女』。この2曲の題名だけ聞いたら、どぶろっくのおもろ楽曲かと思ってしまうくらいです。『傘がない』は当初はヒットせず、オリコンチャートの最高順位は69位。
とはいえ、いつしか陽水の代表曲と言われるようになったのは、その歌詞の持つメッセージ性の強さだったとも言われています。早い段階からメディア・ジャーナリストと称するニッチな層からは注目されていました。
さらにそれに追随するかのように、この楽曲が生まれたバックグラウンドを全く知らない世代がこの楽曲をカバーするようになります。
その結果、この曲が陽水の初期の名曲と言われるようになったのです。
若者への訴求力(訴えかける力)が高い曲なのですね。この歌詞と曲、一体どんな時代に生まれたのでしょうか。
1972年という時代――重苦しい時代
1972年、国内では学生運動の終焉(しゅうえん)を告げる大事件が起こります。2月に発生した浅間山荘事件です。主犯の連合赤軍・永田洋子と森恒夫が逮捕され、残党は浅間山荘に人質をとって立てこもります。機動隊がそこに突入、大きな鉄球で完膚なきまでに山荘をぶち壊し、人質を救出、立てこもり犯を逮捕しました。それまで激しかった学生闘争はすでにこの頃徐々に沈静化しており、まさに闘争を締めくくる最後となる大事件だったのです。
その後、山荘跡から連合赤軍によるリンチ殺人の犠牲者たちの亡骸(なきがら)が次々に発掘されます。「粛清(しゅくせい)」の名のもと、繰り返された凄惨なリンチ殺人は、実は陳腐な痴情のもつれだったりをマスコミに赤裸々に曝露され、空しい結果に終わったのです。
その年の5月には大阪、千日デパートの火事で118人が死亡します。 朝には楽しげにショッピングに繰り出した人たちが、夕方には死んで戻って来る。火災の恐ろしさもさることながら、命のあっけなさを思い知るのです。
とにかく、1972年は明るい話題が少なく、生きていくことのはかなさや虚無感を感じざるをえない時代だったと言えるのかも知れません。
気になる歌詞をチェック!
毎度のお断りで申し訳ないのですが、ここでの解釈はあくまでも私個人の見解です。井上陽水本人のこの楽曲に対するコメントはあえて含みませんので、あしからずご了承ください。 それではさっそく歌詞をチェックしていきましょう!
都会では自殺する若者が増えている
今朝来た新聞の片隅に書いていた
だけども問題は今日の雨 傘がない
行かなくちゃ 君に逢いに行かなくちゃ
君の町に行かなくちゃ 雨にぬれ
つめたい雨が今日は心に浸みる
君の事以外は考えられなくなる
それはいい事だろう?
出典: https://twitter.com/wakana6u6/status/913171675012722688
この曲がリリースされた1972年、10万人当たりの自殺率の推移を見てみると、男性の自殺率が1971年の17人から19人と増加しています。女性の自殺率がほぼ13人から14人前後を緩やかに動いているのに対し、男性の自殺率はこの後、政治の大きな流れをじかに反映するかのように過敏に跳ね上がっていくのです。
当時、何気なく目にした新聞の片隅のその記事が印象に残るなんて、心が病んでいるのでしょう。そう言えば、作家の川端康成がガス自殺でなくなったのも1972年の4月でした。合掌。
一方で、会う約束をした人がいて、その人に会いに行かなくてはならないのに、傘がないことを憂(うれ)えている。 本心は、傘がないことを理由に会いたくない気持ちを吐露(とろ)しているとしか思えません。
憂うつなのでしょう、人と会うのが。心がうっ屈しているから、会いたくないのでしょう。
テレビでは我が国の将来の問題を
誰かが深刻な顔をしてしゃべってる
だけども問題は今日の雨 傘がない
行かなくちゃ 君に逢いに行かなくちゃ
君の家に行かなくちゃ 雨にぬれ
出典: https://twitter.com/mewnsn/status/749849624869892096
社会的な大きな問題を見ながら、自分の小さな世界を憂えている。自分の中の問題の方がよほど大きいのです。雨が降っているのに傘がないこと、そんな中、君に会いに行かなくてはいけないという厄介な事情が、一番悩ましいのでしょう。