「シーラカンスと僕」のサビ
目的はないけど去りたい
青い目とウロコで
うろうろする僕はシーラカンス
どこかへ走り出しそう
さよならする深い夜から
出典: シーラカンスと僕/作詞:山口一郎 作曲:山口一郎
主人公は、シーラカンスと自分自身を重ね合わせています。
目的などないのでしょう。
どこへ向かえばいいのか、わからないのだと思います。
ただ、この場所にこれ以上いたくない。
この場所にいても、何も達成できないし、ニュースが変わらないように何も変化しない。
そんな心情なのだと思います。
目的地がどこかわからないならば、思考は必要ありません。
ぼーっと移動だけすればいいのです。
シーラカンスのような境地に達したい。
彼はそう考えているのでしょう。
行き着く先はどこなのか。
そんなことは、考えても仕方がありません。
くどくどと、考えること自体が野暮ったいと思っているのでしょう。
現実逃避
主人公の一連の行動は、幻想的な現実逃避だとも言えます。
ただクヨクヨしながら街を歩くより、魚になった方が楽しい。
ファンタジーの世界へ突入ですね。
大気の海の深海に隠れて、ぼーっと泳いでいる。
そんな風に考えると、自分の心を解放できるのかもしれません。
「シーラカンスと僕」を聴いていると、心が解放されたようになります。
知らず知らずのうちに、幻想の世界に浸っているのでしょう。
「シーラカンスと僕」の2番
どんな風景?
灰色のビルはまるで珊瑚礁
息切れしてシャローを目指し泳ぐ
静かに 静かに
出典: シーラカンスと僕/作詞:山口一郎 作曲:山口一郎
幻想的な歌詞の世界が広がってきました。
主人公は浅瀬を目指しています。
もしかすると、ビルをエレベーターで上がっているのかもしれません。
階段で上がっているとも考えられます。
会社勤めのサラリーマンなのでしょうか。
街中を歩きながら、ビルを見上げているという可能性もあります。
あてもなく歩き、街を眺めながら、浅瀬を探しているのです。
音を立てると、他の人間に邪魔されると思っているのでしょうか。
誰の干渉も受けずに、ゆっくりと進みたい。
彼は、シーラカンスのように生きたいのかもしれません。
一体どんな場所を目指しているのでしょうか。
進化したいけど…
浅瀬を目指すというのは、進化したいということでしょう。
太古より続く海から陸上に上がり、進化したいと願っているのです。
シーラカンスは深海魚。
本来浅瀬にいる魚ではありません。
深海から上がらず、進化もしない。
それが本来の姿です。
しかし主人公は、自身とシーラカンスを重ねながらも、自分を変えたいと願っているよう。
進化できないという宿命を背負いながら、なおも必死にもがいています。
彼にとってシーラカンスは憧れであり、一方でこのままではダメだという焦りの象徴でもあるのでしょう。
この古代魚は、アンビバレントな存在なのです。
シーラカンスと僕の行く末
曖昧な若さを
無理に丸め ゴミだとした
どうか僕が僕のままあり続けられますように
出典: シーラカンスと僕/作詞:山口一郎 作曲:山口一郎
幻想的な情景を描いた歌詞から一変して、主人公が自分の願いを語ります。
かなり抽象度の高い文章ですね。
自らの若いエネルギーを感じながらも、意味などないと切って捨てたのでしょうか。
そんな印象を受けます。
ただエネルギッシュなだけでは、本質にたどり着くことはできない。
主人公は、そんな達観した人物なのかもしれません
他の人がありがたがる、若さの価値をないがしろにしている。
しかし彼はそんな自分に誇りを持っているようです。
だからこそ、自分のままでいたいと結論付けているのだと思います。
結局は、今の自分も唯一無二の存在で、捨てきれないということでしょう。
彼は本当は、シーラカンスのままでよいと思っているのです。
陸地に上がる努力はしたけれども、上がれないことはわかっている。
このまま夜の海を彷徨い続けるような生活も、自分ならではなのではないか。
深海と浅瀬の間を揺れているのだと思います。
きっと彼は、変わる部分もありつつも、変わらないものを胸に抱き続けるのでしょう。