あなたは忘れたと
思うけどまだ会いたいの
待っててと叫ぶ声はどこかに

出典: 夜汽車は走る/作詞:川谷絵音 作曲:川谷絵音

「彼の頬」にまつわる記憶にこだわっているのは彼女だけなのかもしれません。

「忘れた」という言葉には、気にしていないという意味に加えて、もうひとつの意味があると考えられます。

彼がなにか悪いことをして引っ叩かれたのであれば、彼は「俺が悪いから当然」と受け入れるでしょう。

罰は受けたから、もういいよね?という意味で「忘れた」と表現したのかもしれません。

しかし彼女は忘れていません。忘れるためにはもう一度頬に触れたいのです。

離れてしまった彼に追いつくために「そこにいて!」と叫びます。

しかし声は届かず、彼は更に遠く離れてしまうのでしょう。

愛を取り戻したいわけではない

失恋ソングには「関係修復」を望む曲が多くありますが、この曲は違うようです。

彼女は彼に何を求めているのでしょうか。

平然としている彼に募る思い

こうやってる間にもさ
喧嘩した部屋では別の
時間を過ごしてるんでしょ?

出典: 夜汽車は走る/作詞:川谷絵音 作曲:川谷絵音

「ビンタ」という例え話は、あながち間違ってはいないようです。

二人は彼の部屋で喧嘩をし、彼女はそこで彼に手を上げてしまったことを後悔しています。

夜が来るたびに後悔の念に苛まれ、会いに行きたいと思っている彼女。

「彼もそうであって欲しい」「彼もきっと後悔している」とは考えていません。

こういった部分が、恋愛のリアルな描写と言えるでしょう。

二人の間に亀裂が生じた部屋で、彼は何事もなかったかのように過ごしているのだろうと想像します。

「別の人と」ではなく「別の時間」と歌われるこの部分。

別の女性の存在は問題ではなく、彼が彼女のことを何も考えていない現状が問題のようです。

目を閉じる度
唇噛む

出典: 夜汽車は走る/作詞:川谷絵音 作曲:川谷絵音

瞼(まぶた)を閉じれば、擬似的な夜が訪れます。

そこに浮かぶ彼は、「彼女の思い出の中の彼」ではないのかもしれません。

のうのうと別の時間を過ごす、想像の中の新しい彼。

「唇を噛む」という行為が表しているのは悲しみではなさそうです。

「自分はこんなに辛い思いをしているのに、あなたは平気そうな顔をして!」

悲しそうに見えない、後悔の色も見えない彼に対し、悔しさがこみ上げているようです。

好きだったと言えなくても
あなたの顔が見たいの
降り出した雨に流るる
モノトーンの恋

出典: 夜汽車は走る/作詞:川谷絵音 作曲:川谷絵音

おそらく喧嘩別れをしたまま、別離の決定打がないままなのでしょう。

彼から何もアクションがないことから、彼女は「終わり」を感じているようです。

今さら「好きだった」と告げても、二人の関係には何も響かないことを理解しています。

彼の平然とした態度を崩すためにも、彼女は彼に会いたいのではないでしょうか。

「モノトーン」は、過去や思い出、記憶を表現する言葉です。

恋人同士だった事実は既に過去のものであり、彼女はそこに執着しません

雨に流れて溶けていくのをじっと見ています。

諦めない夜汽車

まだ夜汽車は走る
あなたの頬を触るまで
もう一度触れたら諦めるから
あなたは忘れたと
思うけどまだ会いたいの
待っててと叫ぶ声はどこかに

出典: 夜汽車は走る/作詞:川谷絵音 作曲:川谷絵音

先程は「ただ夜汽車は〜」でしたが、こちらでは「まだ夜汽車は〜」になっています。

彼女を乗せて走り出した夜汽車は、「待ってて」という声に足を止めない彼を追っているのです。

汽笛が鳴るまで忘れない

彼女が夜汽車で走る本当の目的が見えてきます。

目的を果たし、彼の動揺を自分の目で確認することができたのでしょうか?

思い出の中に生きる彼と今の彼

手を繋いで歩く2人を
窓の外に見たような気がして
モノクロの過去の記憶に重ねては泣いて明ける夜

出典: 夜汽車は走る/作詞:川谷絵音 作曲:川谷絵音