コンセプトはゴシック

耽美主義的な世界観

【ROMANCE(BUCK-TICK)】の意味を解説!主人公は吸血鬼…悲しくて美しい物語に感動の画像

2005年3月にリリースされた、BUCK-TICKの23thシングル「ROMANCE」

芸術的な観点から示せば、耽美(たんび)主義に根差した世界観を持つ曲です。

CDジャケットのシチュエーションは、古めかしい洋館を思わせる薄暗い部屋。

そこにいるのは妖(あや)しく舞う花嫁と、背広姿で片隅に腰を下ろす奇怪な顔の男。

重々しく暗い男女の描写はどこか背徳的な香りが漂い、カルトめいた雰囲気さえ感じさせます。

音楽性の幅広さと深さで、固有のパブリックイメージを構築してきたBUCK-TICK

アルバムごとに変化してきた音楽性の根底にあるのは、時代に押し流されない堅牢な美意識です。

この曲を収めたアルバムには、そうした音楽性の集大成ともいえるコンセプトが掲げられていました。

「ROMANCE」のPV。サウンドもビジュアルも、まさにゴシック・ロックの王道です。美しさばかりでなく、妖しさや切なさが混じり合った名曲。

アルバム「十三階は月光」

【ROMANCE(BUCK-TICK)】の意味を解説!主人公は吸血鬼…悲しくて美しい物語に感動の画像

「ROMANCE」は、2005年4月に発売されたオリジナルアルバム「十三階は月光」からの先行シングルです。

全18曲を収録した大作アルバムのコンセプトはゴシック

この前年、BUCK-TICKメンバーはそれぞれソロ活動を展開します。

ボーカルの櫻井敦司がスタートさせたのが、バンド形式のプロジェクト。

彼が率いたバンドTHE MORTAL(ザ・モータル)の音楽性が、ゴシック・ロックでした。

そこからイメージが膨らみ、形になったのが「十三階は月光」。

「ROMANCE」と同様、ジャケットのデザインもゴシックそのものです。

どの曲もシンプルなアレンジながら、美しい旋律が光るサウンドの完成度は抜群。

夢と現実狂気と正気を行き来するような歌詞も、緻密な物語性が感じられます。

初回盤には「ROMANCE」のPVを収めたDVDが付属していました。

解釈の根源は闇

【ROMANCE(BUCK-TICK)】の意味を解説!主人公は吸血鬼…悲しくて美しい物語に感動の画像

ゴシックのルーツは、壮大なスケールと奇怪な形状を併せ持った中世ヨーロッパの建築様式。

そこから派生した概念は美術や文学、音楽など、さまざまな芸術に波及しました。

中世のゴシックをリバイバルするムーブメントが起こった、18世紀のヨーロッパ。

ゴシックの新たな定義を方向付けたのは、ヨーロッパにおける中世のイメージでした。

戦乱や疫病に見舞われ続けた暗黒時代。まさに闇の世界だったのです。

ゴシックのファッションが、なぜ黒ずくめなのか。大きな理由はそこにあります。

暗黒時代がイメージさせた闇は、誰も見たことがないもの。

見たことがないという点では、人間の心の奥深くに隠された闇と同質ともいえます。

精神的な闇に存在するのは、背徳的で退廃的な思想や振る舞いに憧れる人間の本質。

死や刹那、怪奇、神秘といった得体の知れないものに対して抱く幻想です。

優れた想像力を持つ芸術家たちの幻想は、悪魔や怪物などを題材にした作品を生み出したのです。

ゴシック・ロマンス

幻想が生んだ怪物

そうした幻想は18世紀末、ゴシック・ロマンス、つまりゴシック小説というジャンルを確立させます。

現代のSF小説、ホラー小説のルーツとされるのがゴシック・ロマンス。

時代のベクトルに逆行するかのような中世風の館、怪奇現象、亡霊などが主なモチーフでした。

ヨーロッパ各地で伝承される吸血鬼に着想を得たゴシック・ロマンスが「ドラキュラ」

「フランケンシュタイン」などとともに、怪奇文学の古典的作品として知られています。

吸血鬼のロマンス

突き刺す愛

月明かりだけに 許された
光る産毛に ただ見とれていた
眠り続けている 君の夢へ
黒いドレスで待っていてほしい

ああ 君の首筋に 深く愛 突き刺す
ああ 僕の血と混ざり合い夜を駆けよう
月夜の花嫁

天使が見ているから 月を消して
花を飾ろう 綺麗な花を

出典: ROMANCE/作詞:櫻井敦司 作曲:今井寿

恍惚とした歌詞の世界を構成する、美しくも異質な言葉の数々。

「光る産毛」とは、首筋のことでしょう。

月明かりの中で見とれていたのは、首筋に「深い愛」を突き刺し、「僕の血」と混ざり合わせるため。

まさに、「月夜の花嫁」の血を吸いたいと願う吸血鬼をイメージさせます。

しかし、その行為は、花嫁を殺してしまうということに他ならないのです。

主人公は、ヒロインの血を吸うためだけに、あらゆる手を尽くして花嫁にしたのかもしれません。

「黒いドレスで待っていてほしい」

「夜を駆けよう」

そこには、少なからずのロマンスが感じられます。

突き刺そうとしているのは長く鋭い牙ではなく「深い愛」

生き血を吸うという最大の快楽を前にして、「天使が見ている」ことを気にするのです。    

良心の呵責(かしゃく)を覚えてしまった様子がうかがえます。

さらに「花を飾ろう」という言葉にも、吸血鬼らしからぬ贖罪(しょくざい)の意識が感じられるのです。

長く鋭い牙を「深い愛」と表現した主人公。

主人公は花嫁に対し、血を吸うための獲物という存在を超えた感情を抱いているのです。