そして失われた僕
世界が僕を失くして 見えない 見えない って叫んでる
浮遊の気配に紛れ込んだ 僕を忘れてしまったかな
出典: Missing ling/作詞:TK 作曲:TK
ここで失われたのは、「偽物の僕」でしょう。
偽物の僕は言い換えれば、世界が作り上げたようなもの。
世界にとってその存在が失われることは、1つの歯車を失うのと同じことなのでしょう。
しかし偽物の僕が消えたところで、僕という存在が完全に消えたわけではありません。
本物の僕は、確かにこの世界に存在しているのです。
2行目ではそんな本物の僕が、世界に対してささやかなる自己主張をしている様子が描かれています。
僕は間違いなくこの世界に存在しているのに、気が付いてもらえない。
周囲に認められることよりも自分自身の理想を追求しているが故…でしょう。
そんな状況を、2行目の比喩「浮遊の~」で表現しています。
偽物か本物か
すべて消し去りたい
瞼に残された君のイメージを
叫んだり 壊したり 重なり合って
孤独指 視線 耳も記憶呼吸
瞼を開ければ kiokuless
出典: Missing ling/作詞:TK 作曲:TK
1行目、記憶にこびりついているイメージとはまさに「偽物の僕」のこと。
直前の歌詞で、本物の僕を取り戻すために偽物の僕と決別した様子が描かれていました。
ここではその偽物の存在を、記憶そのものから抹消したいという想いが綴られています。
きっと記憶から消さなければ、偽物の僕は残った記憶を頼りに自分の存在を復活させようとする。
だからその前に、なんとかして記憶ごと消し去らなくてはならないのです。
2行目にあるとおり、僕は必死に抵抗したのでしょう。
その結果、偽物の僕を撃退することに成功したようです。
4行目の英語部分は造語。記憶レス、つまり記憶から失われている状態を意味しています。
偽物に近づく僕
例えば僕の仕組みが変わって
オレンジが息をする冬の匂いに
刺さったり 時を戻せなくなったら
優しく終わりを告げて
出典: Missing ling/作詞:TK 作曲:TK
しかし偽物の僕は、そう簡単に消せませんでした。
自分自身の理想だけを追い求めることはアーティストにとって究極の目標でしょう。
しかし現実はそうできるほど甘くありません。
結局理想を追いつつも世間から求められる姿、つまり偽物の僕を再現しようとしてしまうのです。
ビジネスでいえば「世間のニーズを捉える」という至極真っ当な行為ですが、アーティストには難しいこと。
自身の意思1つで、こだわりを貫くも世間に合わせるも自由にコントロールできてしまいます。
だからこそ迷い、苦しいのでしょう。
主人公の僕にとって偽物の自分を再現することは不本意であり、その甘い誘惑に流されることを嫌がっています。
だからこそもし自分自身が負けた時には、4行目にあるとおり「僕はもう終わりだ」と言い聞かせているのです。
僕の終わり
いつかはこの声も連れ去られて
誰かを満たせる夢が終わるのさ
続きはあの場所と僕の中に
the endless
出典: Missing ling/作詞:TK 作曲:TK
本物の僕で人々を喜ばせることができれば、そんなに素敵なことはないでしょう。
しかしそううまくいかないのが現実。
だから世間に求められるとおりに着飾った偽物の僕を作り上げる…ここまでの話はこうでしたね。
偽物の僕を作り上げ、依存することはまるで負けのようですが、生き抜くためには必要なことでした。
まるで存在が永遠であるかのような偽物の僕ですが、実際はその偽物でさえ存続が怪しいことがわかりました。
ここで「終わり」を感じているのはまさに、周囲に求められていたはずの偽物の僕でしょう。
安泰であったはずの僕の存在は、世間からのニーズに対応しきれなくなった瞬間終わりを迎えます。
この状況を打開できる手段はただ1つ。
再度世間のニーズを捉えなおし、それに近い自分自身を作り上げることでしかありません。
そうすることで「endless」、つまり永遠に偽物の僕が輝き続けられるのです。
一生決別できない偽物の僕
探し物を失くした ねえ 今だけ?
僕を破裂させて飛び散らしていいよ
ねえ 残ってる
出典: Missing ling/作詞:TK 作曲:TK