生きるために人間を喰って壊せるか、生きるために人間としての自我を捨てて狂えるか。
「壊せる?」「壊せない!」「狂える?」「狂えない!」と、自分の内面でせめぎ合っているようですよね。
人間が人間として生きることと、喰種が喰種として生きること、それはきっと何も違わない。
しかし、半分人間で半分喰種だとしても、どちらにも属さないで生きられるほど甘くない。
喰種としての空腹が限界に達したとき、カネキは人間の親友・ヒデを手にかけようとしました。
その一連のシーンでも、人間としての理性と喰種としての欲望、ふたつの感情に同時に支配されたカネキの苦しみを感じずにはいられません。
罪を犯さず慎ましやかに暮らす喰種や、まだ幼い喰種すら駆逐される現実。
しかし、食事を除いて人間と喰種の生活にそう大きな違いはありません。
捕食対象としてではなく、人間と深い交流がある喰種、喰種と家庭を持った人間も少なからず存在しています。
その一方で、縄張りや思想の違いなど喰種同士でも対立して争いあっています。
人間と喰種という単純な二項対立ではなく、すべてが敵になり得るのに、すべてが味方になり得ない「歪んだ世界」です。
その世界で、人間でも喰種でもあるカネキは、どこに属したとしても結局はどっちつかずの存在、なのかもしれません。
無限に広がる孤独が絡まる 無邪気に笑った記憶が刺さって
動けない 動けない 動けない 動けない 動けない 動けないよ
unravelling the world
出典: https://twitter.com/Scylla_ruvito/status/923190467797311488
俗にいう「白カネキ」覚醒のシーンを連想させますよね。
意識を保ったまま残酷すぎる拷問を受け続け、その最中、自らの内側から語りかけるリゼとの対話で「他人を喰らうこと」を受け入れたシーンです。
自分が動けないことで、ほかの誰かの命が奪われることもある。それでも動けなかった弱い自分への失意や葛藤、そして悲しみ。
それらを経て、「間違っているのはこの世界だ」という結論に達します。
「unravelling the world」で、世界を解く。
すなわち、どっちつかずだったカネキ自身が腹をくくって、この世界に対する自分なりの答えを出したことを表しているように思います。
変わってしまった
変えられなかった
2つが絡まる 2人が滅びる
壊せる 壊せない
狂える 狂えない
あなたを汚せないよ 揺れた
出典: https://twitter.com/LaLa_songs/status/920520667061194752
喰種であるリゼと人間であるカネキが絡まり、そのふたりは新しい存在となって滅びる。
髪の色が黒から白に変わり、敵対するものを傷つけることも厭わなくなったカネキの姿は、まさに覚醒でした。
誰かが仕組んだ孤独な罠に 未来がほどけてしまう前に
思い出して 僕のことを 鮮やかなまま
忘れないで 忘れないで 忘れないで 忘れないで
出典: https://twitter.com/tomo_wasteland/status/911795143979671552
変わってしまったことにparalyze
変えられないことだらけのparadise
覚えていて 僕のことを
教えて 教えて 僕の中に誰がいるの?
出典: https://twitter.com/novelcreate_103/status/911603198149799938
人間だったカネキが半喰種になったのは、偶然でもあり、仕組まれたことでもありました。
「paralyze」は麻痺。変わってしまったことに麻痺してしまったけれど、それでも変えられないことがたくさんある。
変わらない世界を皮肉めいて「paradise」と言っているようにも、変えられなかった想いを抱えた世界を「paradise」と言っているようにも聞こえます。
そんな世界で、人間だった「僕」に、親友だった「人間」に、距離を置いた「喰種」に。
どんなに未来が待ち受けていたとしても、覚えていて僕のことを、と祈っているのではないでしょうか。
2期(√A)OP『無能』/österreich
こちらも、初回限定版のCDは石田スイ先生書き下ろしのイラスト。
裸のカネキが胎児のように丸まり、無防備に寝転んでいる様子が描かれています。
2期(√A)OP映像はこちら!
1期のOPはカネキという人物を掘り下げ、カネキ自身が発した言葉のような曲でした。
こちらの2期OPは、原作とは違うアニメオリジナルストーリーということもあり、1期より抽象的で、断片的なイメージを掬い取ったような曲になっていると思います。
また、この曲は作品の予備知識なしで作った新曲を石田スイ先生に渡し、そのフィードバックを元に作られたそうです。
作詞作曲を手掛けた高橋國光が原作マンガを読んだのは曲作りが終わった後とのことですが、カネキを暗喩しているような表現が散見されて興味深いです。
『無能』の歌詞の意味を考えてみた
夢を見たんだよ 生まれた時の事
美しく生きてね 子宮の街
僕ら手を叩いて笑ったんだ
絵の具を飲み干した 虹の色変わった
抱きしめられたくなった
1人じゃもう、歩けなくなった
出典: https://twitter.com/rtsyccsd/status/763985858437394432
2期(√A)では、カネキは「アオギリの樹」という組織に入り、戦い続ける道を選びました。
喰種になり力を得て、気を張り続けているうちに、緊張の糸がぷつりと切れてしまった。
そんな印象を受ける歌詞です。
母親の面影に依存気味だったカネキが、母親と暮らしていた頃を懐かしむようなイメージでしょうか。
体内回帰のような夢から醒めると、目の前の世界には誰もいなかった、とぼんやりしているような。
また、喰種が喰種を喰らうと癖や人格が取り込まれ、喰種としての力が高まります。
「絵の具を飲み干した 虹の色変わった」というところは、何人もの喰種を喰らって、さまざまな力を取り込んできたことを表していそうです。
人間の頃とは、もはや見える景色すら変わってしまったのかもしれません。
そんなバケモノのような自分を振り返ってみたとき、ふと誰かの温もりが欲しいと思うことは当然のような気がします。